コーキングガン薪づくりで生じる身体的負担
コーキングガンと塩ビパイプを使って泥状にしたダンボールを圧縮し、薪を成形する方法はエコで手軽な反面、1本ずつ手作業で圧縮しながら取り出す必要があり、思いのほか時間と労力がかかります。特に圧縮する際には強い握力が求められ、繰り返すうちに手の平側にある前腕屈筋群が痛くなってくるのがネックです。
より効率よく、そして腕への負担を減らして成形薪を作れないかと試行錯誤する中でたどり着いたひとつが、家庭用の縦型洗濯機を使った脱水成形法です。この方法であれば、大量のダンボールを一度に圧縮・成形でき、作業時間の短縮にもつながります。今回はその工程と注意点を詳しくご紹介します。
洗濯機でダンボール薪をつくる準備
まず、成形に使用するダンボールは、あらかじめ細かくちぎっておく必要があります。手でちぎるのは手間がかかるため、私は家庭用のシュレッダーを用いて裁断しました。この作業は慣れの問題も大きく、私自身は昨年から、ダンボールが目に入った瞬間に裁断する習慣が身についていたため、特に苦には感じていません。ちなみに裁断したダンボールは、廃油を染み込ませれば焚き付け材としても使えますし、メルカリなどでの発送時には緩衝材としても重宝します。
細かく裁断したダンボールは、十分に水分を含ませることで繊維がほぐれやすくなり、その後の加工がスムーズになります。これまでの経験では、水に浸して一晩ほど放置するだけで、ダンボールは十分に柔らかくなりました。ただし、より短時間で繊維をほぐしたい場合には、熱湯を用いる方法が有効でした。温度が高いほど繊維への浸透が早まり、分解も進みやすくなるようです。
さらに、熱湯に木灰を加えることで液体がアルカリ性に傾き、ダンボールの繊維がより一層柔らかくなる傾向が見られました。pHが11程度のアルカリ性環境では繊維が分解しやすいとされており、重曹よりも木灰のほうが繊維をほぐす力が強い印象を受けました。
なお、このようなアルカリ性の水溶液で柔らかくしたダンボールであれば、後述する工程で泥状にしなくても、コーキングガンである程度の強度をもった薪として成形することも可能でした。
ペイントミキサーを電気ドリルに装着して、十分に水分を含んだダンボールを撹拌すると、繊維がさらに細かく分解され、全体が均質な泥状になります。この工程は、手作業でちぎっただけの状態よりも、脱水した際に均一な強度と密度を得るうえで有効です。
泥状になる時間は10L程度であれば5分、20L程度であれば10分程度かかり、繊維の状態によって前後することがあります。うまく撹拌できない場合は、水量を増やすことで流動性が発生しやすくなり、よりスムーズに分解しながら撹拌することができました。
洗濯機でダンボール薪をつくる方法
ダンボールが泥状になったら洗濯ネットに移し替えます。使用するネットは、目の細かいタイプが適しており、繊維の漏れ出しを防ぎます。サイズについては、ファスナー部分の長さが50cm程度あると、20L前後のバケツから泥状のダンボールを移しやすくなります。また、ネット全体の長さも50〜60cm程度あれば、内容物をしっかり収められます。
洗濯ネットへの移し替えが終わったら、洗濯機の洗濯槽にネットを入れます。このとき重要なのは、泥状ダンボールが入ったネットをできるかぎり平らに均等に広げ、洗濯槽の底面に密着させることです。底面に偏りがある状態で脱水を開始すると、遠心力のバランスが崩れ、洗濯槽が激しく揺れる原因となります。実際に適当にネットを放り込んだところ、偏心運動によって強い振動と騒音が発生し、自動停止機能が作動しました。
その他に、水分を含んだ泥状のダンボールは想像以上に重くなるため、洗濯機の対応容量(一般的に5〜12kg)を超えないよう、水気を適度に切ってからネットに詰めることも忘れてはなりません。ちなみに、シュレッダーで裁断したダンボールを22Lバケツ一杯分に入れた場合、乾燥状態では約1.4kgでしたが、脱水後は約3.8kgになったため、脱水前に水気を適度に切っておけば、モーターに過大な負荷がかかることはありません。
こうして注意点を押さえて脱水を行えば、洗濯機の遠心力によって泥状のダンボールが内壁に均等に押し付けられながら成形され、厚みのあるリング状の成形物が自動的に出来上がります。
次に洗濯機で脱水された成形物を取り出し、乾燥工程へと移ります。取り出しの際、遠心成形によって形成されたリング状の構造は一部が崩れ、大きな塊と細かな破片に分かれました。湿潤状態では結合力がやや脆弱であるため、この段階では慎重に取り扱う必要があります。
崩れた小片については、適量の水を加えて再成形可能な粘性を持たせ、手で団子状にまとめることにしました。
乾燥時間
これらの成形物を干し網に入れて、日当たりと風通しの良い屋外で乾燥を行いました。乾燥にかかった日数は天候や気温、湿度によって左右されますが、晴天が続いた条件下では、一週間程度で手で割っても中まで乾いていることが確認できました。
なお、崩れた小片を再成形して団子状にしたものは、乾燥後に非常に硬くなり、手で割って内部を確認することができませんでした。そのため、内部の乾燥状態は不明です。
燃焼時間
有炎燃焼(七輪)
空気の通りがよくなる網状の火皿をセットした七輪に火を起こし、炭が熾火状態になったところへ、使いやすいサイズにカットしたダンボール薪を投入しました。今回は厚さ約2cmのものを使用したところ、有炎燃焼の状態が約10分ほど続きました。燃え方は急激に炎が立つわけではなく、広葉樹の薪のように緩やかで落ち着いた燃焼を見せ、屋外でのまったりした調理や暖を取るにはちょうど良い特性を持っています。
燃焼中には十分な酸素供給や高温燃焼ができないため、未燃焼ガスを含む白い煙が立ちのぼる様子も見られました。燃料中の成分が燃え切らずに揮発した未燃焼ガスによるもので、まだ燃やせるエネルギーの取りこぼしを防ぎ、煙の発生を抑えたい場合は、燃焼ガスを二次的に燃やすような構造を持ったストーブや炉を使うほうがよいでしょう。
なお、今回使用したのは厚さ2cmの成形薪ですが、洗濯ネットに入れるダンボールの量を増やせば、成形体の厚みを大きくすることも可能です。より厚みを持たせれば、その分燃焼時間は長くなります。使用目的や時間帯に応じて、薪のサイズを調整することで、燃費を向上させ目的に応じた燃焼が可能になるでしょう。
無炎燃焼
ダンボール薪は燃焼が進むにつれて炎が収まり、やがて無炎燃焼の状態に移行しました。このとき表面は赤熱し、熾火状態となって、炎を上げずにじんわりと熱を発し続けました。
この穏やかな熱は、湯沸かしや煮込み料理、保温用途など、直火を避けたい場面に適しており、扱いやすいのが特長です。強い炎が不要な調理や、弱火でじっくり加熱したいときに、安定した熱源として重宝します。
今回使用した厚さ約2cmの成形薪でも、熾火状態はおおむね20分程度持続しました。また、部分的に厚みのあったものについては、約30分ほど熱を保ち続けました。成形時に厚みを調整することで、熾火状態も延ばすことができ、用途に応じた使い分けが可能でしょう。
送風式ウッドガスストーブ(二次燃焼)
団子状に成形した約200g分のダンボール薪6個は、送風機能付きの二次燃焼型ウッドガスストーブに投入しました(ストーブはすでに熾火状態)。着火後、五徳を少し超えるほどの高い炎が約3分間立ち上がり、その後は穏やかな炎が約6分間続きました。
しかし、投入量のわりには火力がやや弱く、有炎燃焼の持続時間も短く感じられました。比較として、同じストーブで使用した小さく圧縮されたペレット燃料の方が、ダンボール薪を凌駕する高火力を発揮しています。
このことから、今回のように大きな団子状に成形するよりも、ダンボールを崩れた小片のまま乾燥させて使用した方が、燃焼効率の点では優れていた可能性があります。
一方で炎が収まった後も熾火状態は約40分間持続し、安定した熱源として機能しました。火力は穏やかではあるものの、炭火調理のように一定の温度を保ちながら加熱を続けたい用途においては、脱水後のまま使用するよりも、団子状に成形した薪の方が適していると考えられます。
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