バレル研磨でアルミニウムに光沢をだしてみる
アルミニウムはなぜ光沢が出にくいのか?
YouTubeで「回転バレル研磨機でアルミや1円硬貨の光沢を出すことが難しい…」というご質問をいただくため、実際に検証してみることにしました。思い返すと、他の金属を含むアルミニウム合金とは異なり、アルミニウム100%の素材は光沢が出にくく、他の金属と混ぜると黒く変色したり、腐食してしまった記憶があります。
アルミと食材の化学反応による黒ずみ
アルミ鍋でゆで卵を作った時にカルシウムなどのミネラルと化学反応したり、こんにゃくやゴボウなどのアルカリ性の強い食材を調理したりすると黒ずむことがあります。そのため、アルミニウムの黒色化は混合されている他の素材のワーク(工作物)やpHが原因だと思っていましたが、実際には他にも要因があることがわかりました。
美しい光沢を得るために避けたい表面のダメージ
大きな一因となるのが、アルミニウムは金属として非常に柔らかく、傷や打痕が入りやすいという性質を持っています。光沢とは表面が平滑で光が一定方向に反射することで生じる現象ですが、表面に目立つ傷や凹凸を作ってしまうと光が乱反射し、くすんで見えてしまいます。
粗いセラミックメディアはアルミニウムに不向き
特に写真のように表面が粗かったり、目視で砥粒が確認できる粗研削用のセラミックメディアは、アルミニウムとの相性が良くありませんでした。合金を含まない純アルミニウムは表面が非常に柔らかいため、メディアの角やエッジに当たると深い傷や打痕が入りやすいうえ、バリが寝込みやすいデメリットも存在します。
バリ取り工程で衝撃を抑えるにはプラスチックメディアが効果的
そのため、バリを除去する段階では、セラミックメディアよりも、衝撃が穏やかで柔らかいプラスチックメディアを使用したほうが適していました。
チップトン社のメディアには「重切削」「一般切削」「軽切削」「微小切削」「平滑仕上」「光沢仕上」「鏡面仕上」まで複数の種類があり、切削力が弱くなるほど砥粒は細かくなります。
そのため、アルミニウムのように柔らかく傷が入りやすい素材の場合、「微小切削」以降の表面がツルツルした「平滑仕上」「光沢仕上」「鏡面仕上」用のメディアのほうが、より適している可能性があります。
中性洗剤を添加する目的
さらに緩衝と潤滑を行う目的で中性洗剤を添加しました。アルミニウムが変色(酸化被膜の変質や腐食による変色)を起こしやすくなるpHの範囲は、pH4未満(酸性) および pH8以上(アルカリ性)みたいなので、他の洗剤やコンパウンドを添加する場合は、変色しにくいpH4~pH8になるように調整したほうがよいでしょう。
ちなみに、市販のアルミニウム専用液体コンパウンドの多くは pH8.5 前後であり、ややアルカリ性寄りの設計となっていました。
このバリ取りの工程では、目的が光沢仕上げであれば、家庭用洗剤より、洗浄成分を含んだコンパウンドを添加したほうがよいと思います。
光沢は控えめだが用途によっては十分な仕上がり
平滑仕上用のプラスチックメディアを使い、表面が曇っていたアルミ板のバレル研磨を24時間行いました。使用したメディアは円錐形で、平面だけでなく穴や凹凸のある部分にも効果的に当たる形状です。プラスチックメディアはセラミックに比べて比重が小さいため、衝撃が穏やかで打痕や傷が発生しにくく、バリが寝込みにくい特徴もあります。
研磨後のアルミ板は表面がなめらかで均一な仕上がりとなり、変色や腐食も確認されませんでした。灰色でくすんでいた表面はアルミニウム本来の灰白色が保たれ、黒色化も見られません。映り込みは少なく、反射した鉛筆は薄っすら見える程度であるものの、用途によってはこの段階でも十分満足できる仕上がりです。
仕上げ工程では傷のつきにくい球状セラミックメディア(仕上用)を使用
仕上げの工程では傷がつきにくい球状のメディアを選びました。球状のプラスチックメディアがなかったので、φ6mmの光沢用(仕上用)のセラミックメディアを使用しました。
基本的に仕上用のセラミックメディアは、アルミナ微粉が含まれており、表面は磁器のような滑らかな質感をしています。ただし、仕上用でも円柱や三角などエッジがあるセラミックメディアですと、柔らかいアルミニウムの場合、傷がつきやすいので避けたほうがよいでしょう。
24時間後
次に2mm厚のアルミニウム板をφ6mmの仕上用のセラミックメディアを使い、24時間タンブリングしてみました。研磨剤には中性タイプのピンクコンパウンドを添加しています。
研磨後の表面はくっきりとした鏡面とまではいきませんでした。しかし、研磨後の表面は白い曇りが消え、光沢や映り込みの具合に大きな差がでました。鉛筆に印刷された文字まで読みとれるほどの高い反射性が得られました。
48時間後
さらに追加で24時間タンブリングしてみました。写真ではわかりにくいですが、48時間バレル研磨したほうが、定規のメモリがくっきり映りました。
光沢が出ると同時に、表面の傷や凹みがかえって目立ってしまうというデメリットもあります。このアルミニウム板は無知な頃に粗いセラミックメディアでバリ取りしたものなので、表面の傷や打痕は、おそらくセラミックメディアやワーク同士の衝突が原因だと思います。
そのため、やはりバリ取りの工程では研磨力は低下しますが、衝撃が穏やかで軽いプラスチックメディアを使い、最終仕上げでは角やエッジのない球状のセラミックメディアを使うのが適していると考えられます。
美しい仕上がりを得るためのバレル研磨の最適条件
バレル研磨における基本的なマス装入量
ちなみに、今回のバレル研磨ではマス(メディアと工作物を合わせた全体)の装入量をバレル槽の容積に対して約50%としました。水量はマスの表面とほぼ同じ高さに合わせています。これが基本的な条件であり、水やメディアが少ないと仕上がりが荒くなる傾向があります。
ワークとメディアの混合比
また、ワークとメディアの混合比は、教科書では(1:3)〜(1:6)が目安とされており、ワークを入れすぎるとワーク同士の衝突の発生が増えるため、きれいに仕上げるには量のバランスに注意が必要です。
低速回転で穏やかな流動を維持することが美しい仕上がりの鍵
回転バレル研磨は、バレル槽を回転させてマス(メディアと工作物の混合物)の表層に流動層を作り出し、その中でワークとメディアの間に相対運動を生じさせて研磨する方法です。バレル槽が回転すると、マスは内壁に沿って持ち上がり、重力に逆らえなくなった部分が滑り落ちます。このとき、傾斜した流動層の中でワークがメディアと擦れ合い、表面が少しずつ削られて滑らかになります。なお、流動層の長さが最も大きくなるマス装入量は、バレル槽容積の約50%となります。
回転スピードが速すぎると、バレル槽内で本来の流動層が形成されず、マス全体が激しくかき回される撹拌状態となります。このとき、メディアやワーク同士が強くぶつかり合うため、表面に傷がついたり、研磨ムラが生じる原因となります。そのため、回転スピードは低速に設定することが望ましく、穏やかな流動を維持することでキレイな仕上がりとなります。
ただし、機種によっては最低速に設定しても速すぎる場合があり、その様な製品でタンブリングすると仕上がりが悪くなることがあります。その場合は、出力電圧を下げられるスピードコントローラーに接続することで、回転スピードをさらに下げることができます(写真右の製品のほうがノッキングが少ない)。
コンセントタイマーによる周期的なON/OFF運転の問題点
以前、バレル研磨機の連続使用時間を超過しないよう、コンセントタイマーを使って周期的にON/OFFを繰り返す方法を紹介したことがあります。しかし、アルミなどの金属は停止しているあいだに表面が変色や腐食を起こすことがありました。
一部のバレル研磨機に連続使用時間が設けられているのはモーターの過熱防止を目的としたものですが、回転速度を低速に設定していれば、モーターが焼き付くようなことはありませんでした。実際に、筆者は約4年間にわたり使用し続けており、ときには数週間連続で稼働させたることもありますが、これまで一度も故障することはありませんでした。
このことから、適切な速度制御と負荷管理が行われていれば、一般的な連続使用時間の制限は必ずしも厳密に守る必要はなく、むしろ安定した連続運転のほうが、素材の変色や腐食を防ぐ点で有利でした。



















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