マルチツールで真っ直ぐに切るポイント9選
一般的な内装工事現場では、マルチツールで窓開け加工した開口部は、最終的にはカバーや器具本体によってほとんど隠れてしまうため、そこまでシビアな正確さは求められていません。そのため、マルチツールを使った「真っ直ぐに切断する方法」については、実例や解説をあまり見かけません。
しかし、マルチツールは「トリマー」「ルーター」「ジグソー」と違い、軽量かつコンパクトですぐに作業を開始できる電動工具であることから、正確な中抜き加工やポケット切断したいと考えるDIYerの方もいるのではないでしょうか?
そこで本記事では、マキタのマルチツール(TM30DSH)を使い、真っ直ぐに切るコツをいくつかご紹介します。わたしの様に不器用でうまく切れない方、木工品や治具などに窓開けしたい方の参考になれば幸いです。
1.振動数を低くする
マルチツールの振動数を低めに設定すると、刃が材料を削るリズムがゆっくりになり、急激なブレや跳ね返りが起きにくくなります。振動数を高く設定していると、刃が材料に触れる回数が多いため、一度に大きな削り量が発生してブレやすくなります。高い振動数は刃の動きを制御しにくく、思わぬ方向に力がかかりやすいです。
一方、振動数を低くすると、刃が材料に触れるテンポがゆっくりになるため、操作が安定しやすくなります。切削力のかかり方が穏やかになり、材料との摩擦や負荷を徐々にコントロールできるようになるので、結果的に真っ直ぐなラインを狙いやすくなります。
初めてマルチツールを扱う方や、繊細な作業を行う場合は、まず低い振動数から始めてみるといいでしょう。
2.刃を本機に対して垂直に取り付ける
マルチツールの本体に対してブレードを垂直に取り付けると、グラインダーの様に本体を横向きにして持つことができるようになります。これにより、重心が水平に分散されるだけでなく、腕の振りや身体の保持方向と刃の振動方向が一致するため、ブレが少なく安定した切断が可能になります。また、本体を横向きにすることで、切断ラインの視認性が高まり、刃を正確に材料へ当てやすくなる利点もあります。
3.刃を斜めに進入させる
刃が材料に当たる面積が大きいとブレやすくなります。刃を真っ直ぐ押し込んだ場合は、刃先全体が同時に材料と接触しやすく、抵抗や振動が一気にかかってブレやすくなります。一方で刃を斜めに当てると、まずは刃先の一部分だけが材料に入り、徐々に切り込みを広げる形になるため、負荷が分散され、衝撃や摩擦が大きくなる前に余裕を持って切り進められます。
4.支点を増やす
マルチツールを使うときは、指を支点として切断すると安定力が増します。本機を握っている手の指をワークに当てながら、材料にブレードを徐々に押し下げて切断していくと、振動やブレを抑えて正確にコントロールしやすくなります。ブレードが長くて指が届かない場合は、ワークの上に木片を置くとよいでしょう。
また、メーカーの設計にもよりますが、角形のバッテリーが本体後部に装着されているモデルだと、バッテリーの角を支点とすることもできます。さらに前述した指を支点にする方法と組み合わせれば最大3の支点つくることができます。
5.ハンドルもどきをつける
両手で本体だけを持つ場合、どうしても力が一点に集中しやすく、振動を抑えにくくなります。例えば、ディスクグラインダーや電気ドリルでは、安定性・操作性・効率性・疲労の軽減を高める目的でサイドハンドルが取り付けられる設計になっています。これは、もう片方の手を使って工具の回転力や反動をしっかり支えるための工夫です。
マルチツールでも工夫して補助ハンドルもどきを取り付ければ、片手で本体、もう片手でハンドルを握る形となるので、偏心運動による振動や切断時の跳ねを安定してコントロールしやすくなります。
補助点を左右に分散させ安定力を高めても、不安や恐怖を感じて緊張している人や、筋力が不足していたり疲労が溜まっている人、さらには加齢による身体的・神経的な変化の影響で手が震える人を見かけることがあります。このような場合、特に切り始めの際に刃先が震えてしまい、切断ラインにうまく切り込めない場合があります。
そのような状況でも、前述した指を支点として刃を安定させながら、刃を斜めに材料へ入れて切り始めることで、刃先のブレを抑え、切断ラインを狙いやすくなります。この方法を組み合わせれば、震えによるブレを最小限に抑え、正確な切り込みが行えるようになります。
6.あらかじめ浅い溝を入れておく
切り始めにいきなり刃を深く差し込みながら切断すると、真っ直ぐに進めることが難しくなります。あらかじめ刃を入れる位置にまず浅い溝を作っておくことで、その溝がガイドとして機能するため、刃を真っ直ぐ進めやすくなります。溝を作る際も前述したように刃を斜めにしながら切り込んだほうがブレにくいです。
7.墨にカッターで切り込みをいれる
合板や石膏ボードと比較して無垢材は、材質の密度や木目の方向が一定ではないうえ、硬軟の節や木目があるため、切り込む際に刃が一気に抵抗を受けてブレやすくなることがあります。そのため、カットライン(墨)にあらかじめカッターで切り込みを入れておくと、刃がその溝に沿って進みやすくなるため、切断時にブレにくくなり、真っ直ぐに切りやすくなります。
8.アサリのないブレードを使う
通常のノコギリのようにアサリが付いた刃を使うと、切削時に左右の歯先が材料を引っかき、特に切りはじめの際に刃がぶれやすくなります。一方、アサリのないブレードは、刃幅が常に一定のため抵抗が均一にかかり、振動が抑えられます。その結果、狙ったラインをはずさずに、より正確に直線を切り進めやすいです。
ただし、アサリが開いてないと仕上がりがきれいになるメリットがあるものの、切り屑が外に排出されにくくなるデメリットがあります。切り屑が外に出にくいと、摩擦量が増加し、熱を持ちやすくなります。その結果、切断スピードが低下したり、ブレードの耐久性が落ちやすくなるので、切り屑が上下から排出されるように、ブレードを斜めにして貫通させながら切断するとよいでしょう。
ちなみに画像のブレードは「ゼットソーの際切用33」で、アサリがひらいてないだけでなく、左右の歯先が中央部分よりも短くなっている「段差刃」になっています。外側の歯が短いことで、材料との接触面積や負荷が若干減ります。切りはじめの際に一度に刃全体が当たるのを防ぐため、刃が引っかかりにくく、スムーズに切り進められます。
9.ガイドを使う
切断ラインに沿って木片や定規などをガイドとして添えておくと、マルチツールの刃がそのガイドに沿って動きやすくなるため、より正確な直線を引きやすくなります。
ガイドを使う際は前述したアサリのないブレードのほうが望ましいです。アサリ(刃先を左右に広げた部分)がないため、ガイドを削ったり、刃が弾かれたりするリスクが減り、安定した動きが得られるからです。
実践
実際にここで紹介した「真っ直ぐ切るポイント」をいくつか組み合わせながら、板に長穴を加工してみました。長穴にノブボルトなどを通して固定した場合、丸穴に比べると固定力がわずかに低下しますが、様々なパーツを簡単に着脱・移動できので、作業台やジグ、治具の設計で役立ちます。
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